大判例

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最高裁判所大法廷 事件番号不詳 判決

右の者等に対する臨時物資需給調整法違反、所得税法違反被告事件について昭和二四年一月二九日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は刑訴施行法二条に則り次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する

理由

弁護人石原武夫上告趣意第一点について

記録を調べてみると、原審において被告人両名外一名の弁護人久保寺誠夫は昭和二四年一月一二日原審裁判長より同年一月二五日の公判期日に出頭すべき旨の召喚状の送達を受けながら、右公判期日に出頭しなかつたので、原審裁判所は弁護人の立会なしに公判を開廷して審理をしたことは所論のとおりである。

これに対し論旨は、原審裁判所は旧刑訴三三四条を墨守して弁護人の期日懈怠の責任を被告人等に負はしめ、弁護人の立会なくして公判の審理を受けることを被告人等に強制したものであるが、旧刑訴三三四条は憲法三七条三項刑訴応急推置法四条によつて改正変更されたものと解すべきであるから、原審の審理手続は、右憲法及び刑訴応急措置法の規定に違反するというのである。しかし憲法三七条三項前段は刑事被告人に対しいかなる場合にも被告人自ら資格を有する弁護人を依賴し得ることを保障したものであり、また同項後段及び刑訴応急措置法四条は被告人において自ら弁護人を依賴することが出来ないときに国に対し弁護人を選任することを請求する権利があることを認めたものであつて刑事事件についてはいかなる事件であつても例外なしに弁護人がなければ、公判を開廷することができないことを規定したものではない。従つて、これらの規定により旧刑訴三三四条は所論のように改正変更されたものではないから論旨は理由がない。

同第二点について

原審第一回公判調書によると、同調書中に「被告人は弁護人の弁護権を抛棄せり」と記載されていることは所論のとおりである。論旨は、「被告人」とあるだけでは原審共同被告人三名中の何人をさすのか不明であるというのであるが、右公判に出頭した被告人の全員をさす趣旨であることは多言を要しない。それゆえ、所論のような前提の下に原審が弁護権の行使を不法に制限したとする論旨は理由がない。なお、公判期日に適法の召喚を受けた弁護人が自らその期日を懈怠して出頭しなかつたにかゝわらず、原審に弁護権行使の不法制限があると主張する論旨の理由ないことは、言うまでもないところである。

弁護人久保寺誠夫の上告趣意について

論旨は、原判決が証拠としている買取明細表及び販売明細表は不法に押収された帳簿によつて作成されたものであるから違法であるというのであるが、所論の各明細表が所論の帳簿に基いて作成されたとする証跡は記録中に認むべきものがないばかりでなく、所論帳簿の押収が不法であつたことは本件記録上知り得ないところである。

それ故、仮りに右明細表が所論帳簿によつて作成されたとしてもこれを証拠とした原判決に所論のような違法があることは認められない。よつて、本件各上告を理由ないものと認め、旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

検察官某関与

上告趣意書

被告人 朴奇出

被告人 伊藤義一

京都市中京区姉小路通河原町西入

右両名弁護人弁護士

久保寺誠夫

原判決は違法手続を以て押収された書類に基く供述記載始末書買取、売上各明細表を証拠とした違法がある。

一、原判決は第一、いづれも所定の衣料品販売業者の登録を受けないのに拘らず以下中略

(一) 被告人朴奇出及同伊藤義一の両名は共謀の上前記ローヤル店で昭和二十三年四月十五日頃鈴木某から衣料品であるポロシヤツ二打を代金一万八千円で買受けた外昭和二十二年十一月四日頃から昭和二十三年四月十二日頃までの間約四百十回に亘り湯川伍一外六十二名からシヤツ靴下タオル等の衣料品合計五百数十点を代金合計七百四十七万九千八百円六十銭で讓受け、

(二) 被告人朴奇出及同伊藤義一の両名は共謀の上前記ローヤル店で昭和二十三年四月一日氏名不詳者にメリヤスキングシヤツ一枚を代金七百五十円で販売した外同年一月二日から同年四月一日頃迄の間約五百回に亘り氏名不詳者数百名に対し肌着シユミーズ、シヤツ、ワイシヤツ、タオル、靴下等衣料品合計約七百八十点を代金約九十二万五千九百六十二円で販売し、

(三) 被告人朴奇出及同坂根正雄の両名は共謀の上前記ほうの木店で同年四月十五日氏名不詳者に対し婦人用ソツクス七足を代金千四百円で販売した外、同年一月二日以降同年四月十四日頃までの間約五百回にわたり氏名不詳者数百名に対しシヤツ、ワイシヤツ、パジヤマ、タオル、靴下、セイター等の衣料品合計約千二百三十点を代金約九十三万二千四百五拾九円で販売し、以て衣料品販売の業を行い

第二、省略

と判示し、右事実は(一)………(七)略(八)被告人伊藤義一に対する司法警察官聴取書(記録百十八丁以下)中私は昭和二十二年十二月より商品仕入担任責任者となつたので、仕入明細表を作つて仕入を明かにすることとなつた、台帳には私が仕入れたものも主人が仕入れたものも記載してゐるが帳簿によつて仕入の計算をすると昭和二十二年十一月四日より昭和二十三年四月十五日迄の間湯川伍一外六十三名より四百十回余りに亘り洋服生地外五百三十点を代金七百四十九万七千八百円六十銭で闇購入したことは事実である、全商品の仕入総額の三割位が私の商談により闇購入してゐる旨の供述記載(九)略(十)被告人伊藤義一提出の始末書添付の買取明細表(記録二十丁以下五十一丁迄)(十一)被告人伊藤義一提出の昭和二十三年度センイ製品買上明細表(記録二百四十丁以下二百四十八丁迄)中判示第一(二)の販売に関する明細の記載(十二)被告人坂根正雄提出の昭和二十三年度センイ製品売上明細表(記録二百五十三丁以下二百六十六丁迄)中判示第一の(三)の販売に関する明細の記載並に(十三)略を綜合して之を認める旨の証拠説明をしてゐる。

二、この証拠説明は形式的には何等非難すべきものはない特に第一事実はその判示の如く長期間に亘るセンイ製品の買入及販売であつてその回数は買入に於て四百余回販売に於てはローヤル、ほうの木両店を合せると実に千余回然し取扱の品目数量は多種多様であつてその一々を正確に記憶すること甚だ困難であるからこのような事項に関する単なる供述証拠は意味がない原審が証拠説明として前示(七)被告人伊藤義一の供述記載(十)同人提出買取明細書(十一)同人提出の売上明細書(十二)被告人坂根正雄提出の売上明細書を掲げたことは当然のことであるが、これら供述記載といひ買取明細表売上明細表といひ何れも仕入台帳や売上帳簿等に登載されてゐる数字を所謂オーム返したにすぎない然もその帳簿は証拠物として厳然と存在してゐるに拘らず原審は物的証拠である帳簿類を捨て去り単に帳簿の内容を肯定したにすぎない供述や帳簿に依拠して作成計算された買取明細表売上明細書を証拠としてゐる採証は固より原審の自由であるが前掲各証拠として適法の証拠だらうか?

三、(A)本件被告事件は最初臨時物資需給調整法違反が起訴せられ追つて所得税違反が起訴されたのであつて右各帳簿は昭和二十三年六月三十日下京税務署長から京都地方検察庁に対し右所得税違反の告発があり(記録二三四丁)同年七月五日同検察庁検事が初めて領置したものである(記録四一三丁)記録上からすればこの帳簿は判示第二の所得税法違反の証拠品にすぎない。

(B)然し右各帳簿は判示第二の所得税違反事実とは凡そ無関係のものが多く実は判示第一の臨時物資需給調整法違反の証拠に供すべきものであつて同事件搜査は実にこの帳簿の押収より開始せられ多くの被疑者関係人が帳簿を中心として取調を受けてゐることは一件記録中の聴取書始末書等によつて、何人も容易に窺ひ知り得るのみならず右領置前である同年五月二十三日同警察署より京都地方検察庁に送致されてゐることは証拠品提出の件と題する書面(記録二三一丁)に徴し明白である。

(C)右各帳簿は、被告人等のものである、被告人より任意提出のものではない(後出)昭和二十三年四月十七日下京税務署は前記ローヤル店で滞納税金の徴収の為差押をしたこの日五条警察署の経済係官は之に合流し私服の警察官が室内を搜索し帳簿伝票類は何人かが持去つたのである。当時警察官が帳簿を窃み去つたと云ふ人権蹂躙の声が高く日韓の国際問題も起り兼ねない事態であつた然し右帳簿類は前掲脱税犯告発に関する件(記録二三四丁)の調査先中の記載に明白なようにその日下京税務署が押収した事実が後日判明したのである。

(D)右帳簿類は記録上下京税務署が押収されたものの直ちに五条警察署経済係が借用の形式で之を受取り此の帳簿に基き原判決第一事実の搜査を開始し連日被告人伊藤義一同坂根正雄等の出頭を求め全く帳簿に依存する供述調書始末書明細書等を作成せられていることは一件記録を通読すれば明かなところであるが下京税務署員は如何なる権限によつて之を押収したのか憲法第三五条には「何人もその住居書類所持品について侵入搜索及押収を受けることのない権利は正当な理由に基いて発せられ且つ搜索する場所及押収するものを明示する令状がなければ侵されない搜索又は押収は権限を有する司法官憲が発する各別の令状により之を行ふ」とあり下京税務署員が令状もなく右帳簿の押収をしたことは明かに不法であつて之を警察官に貸与し犯罪搜査の利便に供するが如きは憲法の精神を無視した言語同断の措置であることは多く言ふまでもない。

(E)、然もこれ等諸帳簿は同年六月三十日告発の日下京税務署から被告人朴奇出本人提示(任意提出)したものとして京都地方検察庁に送致されているのは全く不可解である既に下京税務署が不法に押収し之を五条警察署に貸与した書類が如何にして同人の手に回り之を任意提出することができるだろうか、これは全く帳簿押収の不法を糊塗せんがための下京税務署の欺瞞である。

四、列挙の証拠は何れも違法手続で押収された前記帳簿から抽出されたものであり帳簿なくしては存在を許さない性質のものである既に帳簿が違法の証拠である以上之に依存して供述せられ之に依存して作成せられた以上の各証拠も亦違法であると断定せざるを得ない。

若し帳簿は違法の証拠であるとしても之に依存して作成せられた供述記載や明細書等が個々に付適法な場合には帳簿押収の手続が違法であることを無視し之を有罪の資料とすることが許されるならば、憲法の条項並之に基く諸法規は全く空文と化すると思ふ。

五、敍上被告人伊藤義一の司法警察官に対する供述記載は前記違法の手続で押収された帳簿から抽出されたものであり同人提出の始末書、買取販売明細書、被告人坂根正雄提出の販売明細書は全く右帳簿に依存して作成されたものであつて何れもその内容は帳簿を離れて真実を保証し難い違法のものであるから之を有罪の資料とした原判決は結局理由不備の違法があると謂はねばならない。

昭和二十四年八月十日

久保寺誠夫

上告趣意書

本籍 朝鮮江原道蔚珍郡温井面温井里

住所 京都市左京区北白川伊織町五十二番地

洋品雑貨商

朴基出事

被告人 朴奇出

明治四十二年七月三日生

本籍 京都市左京区一乗寺大新開町十一番地

住所 同 市同 区一乗寺地藏町十八番地

店員

被告人 伊藤義一

明治四十二年十二月十日生

京都市中京区富小路通り姉小路上ル

右両名弁護人弁護士

石原武夫

右両名ニ対スル臨時物資需給調整法違反並所得税法違反各被告控訴事件ニ付昭和二十四年一月二十九日大阪高等裁判所第六刑事部ニ於テ言渡サレタ有罪判決ニ対シ左ノ理由ニヨツテ上告スルモノデアル

上告理由

第一、原審公判手続ハ憲法第三十七条第三項日本国憲法ノ施行ニ伴フ刑事訴訟法ノ応急的措置ニ関スル法律(以下単ニ応急措置法ト略称スル)第四条ニ違反シタ不法がアルモノト信ズル。

憲法第三十七条第三項ニハ刑事被告人ハイカナル場合ニモ資格ヲ有スル弁護人ヲ依賴スルコトガ出来ル、被告人ガ自ラコレヲ依賴スルコトガ出来ナイトキハ国デコレヲ附スルト規定シ又応急措置法第四条ニハ被告人ガ貧困ソノ他ノ事由ニヨリ弁護人ヲ選任スルコトガ出来ナイトキハ裁判所ハソノ請求ニヨリ被告人ノタメ弁護人ヲ附シナケレバナラナイト規定シ以テ刑事被告人ノ弁護権ヲ保障シテ居ル。而シテ応急措置法附則第二項ハコノ法律ハ昭和二十四年一月一日カラソノ効力ヲ失フト規定シテ居ルガ昭和二十三年法律第二四九号刑事訴訟法施行法第二条ニハ新法施行前ニ公訴ノ提起ガアツタ事件ニ付テハ新法施行後モナホ旧法及応急措置法ニヨルト規定セラレテ居ル。而シテ旧刑事訴訟法第三百三十四条ニハ死刑又ハ無期若ハ短期一年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ル事件ニ付テハ弁護人ナクシテ開廷スルコトヲ得ズ但シ判決ノ宣告ヲ為ス場合ハ此ノ限ニ在ラズ弁護人出頭セザルトキ又ハ弁護人選任ナキトキハ裁判長ハ職権ヲ以テ弁護人ヲ附スベシト規定セラレ右ノ所謂重罪事件ニ於テハ弁護人ノ立会ガナケレバ公判ノ開廷が出来ナイト同時ニ右ノ所謂重罪事件デナイ事件ニ於テハ仮令弁護人が選任セラレテ居テモ其ノ弁護人ガ裁判所ヨリ適法ノ召喚ヲ受ケ乍ラ公判期日ニ出頭シナイトキハ裁判所ハ弁護人ノ不出頭ノ儘公判ノ審理ヲ為スコトガ出来ルモノト解セラレテ居タ。

然シ乍ラ右旧刑事訴訟法第三百三十四条ノ規定ハ憲法第三十七条第三項応急措置法第四条ニヨリ改正変更セラレ従テ旧刑事訴訟法第三百三十四条ハ応急措置法施行後ハ廃止セラレタモノト解スベキデアル。

前記ノ如ク被告人ノ弁護権ヲ以テ憲法上ノ権利トシタ憲法第三十七条第三項応急措置法第四条ノ規定ハ被告人ハ弁護人ノ立会ノ下ニ公判ノ審理ヲ受ケル権利ヲ保障セラレタモノ換言スレバ被告人ハ弁護人ノ立会ナシニハ公判ノ審理ヲ強制セラレルコトノナイ権利ヲ保障セラレタモノト解スベキデアル。従ツテ被告人ガ自ラ選任シタ弁護人ガ裁判所ノ適法ナ召換ヲ受ケ乍ラ公判期日ニ出頭シナカツタ場合デモ被告人ガ貧困ソノ他ノ事由ニヨリ弁護人ヲ選任スルコトガ出来ナイトキト同様応急措置法第四条ガ適用セラレ被告人ハ弁護人ノ立会ナクシテ公判ノ審理ヲ強制セラレルコトハナイモノト解スベキデアル。仍テ被告人ノ選任シタ弁護人ガ裁判所ヨリ適法ノ召喚ヲ受ケ乍ラ公判期日ニ出頭シナカツタ場合ニ裁判所ガ採ルベキ適法ナル手続ハ次ノ手続ノ何レカニヨルベキモノデアルト信ズル。

其ノ第一ハ其ノ公判期日ヲ変更シテ新期日ヲ指定シ更ニ新期日ニ被告人ノ選任シタ弁護人ヲ召喚シソノ出頭ヲ待ツテ審理ヲ為ス方法デアル第二ハ若シ裁判所ニ於テ其ノ公判期日ノ変更ヲ為サズ同日公判審理ヲ為サントスルナラバ須ラク被告人ニ対シ同日ノ公判ニ立会スベキ他ノ弁護人ヲ選任セシメ其ノ弁護人ノ立会ヲ待ツテ公判ノ審理ヲ為ス方法デアル其ノ第三ハ若シ被告人ニ於テ第二ノ場合ニ他ノ弁護人ヲ選任スルコトガ出来ナイトキハ裁判所ハ被告人ニ請求ガアレバ被告人ノタメ弁護人ヲ附スル旨告知シ被告人ノ請求ガアレバ裁判所ハ直チニ国選弁護人ヲ選任シテソノ立会ノ下ニ審理ヲナスカ若シ被告人ガ国選弁護人ノ立会ヲ辞退シタトキハ全然弁護人ノ立会ナクシテソノ公判ノ審理ヲ為ス方法デアル。裁判所ガ右第一乃至第三ノ何レカノ手続ヲ採ラズニ弁護人ノ立会ナクシテ公判ノ審理ヲ為シタ場合ハ結局被告人ハ弁護人ノ立会ナクシテ公判ノ審理ヲ強制セラレタモノト解スベキデアル。

飜テ本件記録ヲ閲スルニ本件事案ハ被告人両名外一名ニ対シ昭和二十三年六月三十日臨時物資需給調整法違反トシテ公判請求ガ為サレ更ニ同年七月十日被告人両名ニ対シ所得税法違反トシテ追公判請求ガ為サレタコトヲ知ルコトガ出来ル、従テ本件事案ニ付テハ第一審ヨリ終審ニ至ル迄旧刑事訴訟法及応急措置法ニヨツテ審理判決セラルベキモノデアル、而シテ本件記録ニヨレバ原審ニ於ケル被告人両名外一名ノ弁護人久保寺誠夫ハ昭和二十四年一月十二日原審裁判長ヨリ同年一月二十五日ノ公判期日ニ出頭スベキ旨ノ召喚状ノ送達ヲ受ケタガ原審第一回公判調書ニヨレバ同弁護人ハ同日公判ニ出頭シナカツタコトハ明カデアルノミナラズ原審裁判所ハ右一月二十五日第一回公判期日ヲ変更スルコトナク且被告人等ニ対シ他ニ弁護人ヲ選任スルカ否カ若シ選任出来ヌトキハ裁判所ガ附スル旨ノ告知ヲモ為サズ弁護人ノ立会ナシニ審理ヲ為シタコトハ明カデアリ原審ノ右ノ如キ審理手続ハ明カニ旧刑事訴訟法第三百三十四条ヲ墨守シテ弁護人ノ期日懈怠ノ責任ヲ被告人等ニ負ハシメテ弁護人ノ立会ナクシテ審理ヲ為シタモノト解スル外ナク、結局原審裁判所ハ被告人等ニ対シ弁護人ノ立会ナクシテ公判ノ審理ヲ受ケルコトヲ強制シタモノト謂フベク斯ル原審第一回公判ノ審理手続ハ憲法第三十七条第三項応急措置法第四条ノ規定ニ違反シタ違法ノ審理手続デアリ斯ル違法ナ審理ニ基キ為サレタ原審判決ハ全部破毀ヲ免レナイト信ズル。

第二、原審公判手続ハ不法ニ弁護人ノ弁護権ノ行使ヲ制限シタ違法ガアルモノト信ズル。

(イ) 原審第一回公判調書ニヨレバ、原審裁判所ハ被告人両名外一名ノ弁護人久保寺誠夫ガ不出頭ナルニ拘ラズ被告人等ニ対シ他ノ弁護人ヲ附スル機会ヲ与ヘズシテ被告人訊問及証拠調ヲ為シ検事ノ事実及法律ノ適用ニ付意見ヲ陳述セシメ更ニ被告人両名外一名ニ意見ノ最終陳述ヲ為サシメタ後「被告人ハ弁護人ノ弁護権ヲ抛棄セリ」トノ記載ガ為サレテ居ルノデアル。弁護人ノ謄写ニシテ誤リナキ限リ右ノ「被告人ハ弁護人ノ弁護権ヲ抛棄セリ」トノ記載ハ文章用語ノ形式ヲ厳格ニ守リ殊ニ単数複数ノ区別ニ付厳密ナ態度ヲ以テ臨ム裁判所ノ用語例ヨリスレバ右ノ「被告人ハ云々」トハ即チ単数ノ「被告人一名ハ弁護人ノ弁護権ヲ抛棄セリ」ト解スル外ハナイ。

トコロガ原審被告人ハ本件上告被告人両名ノ外ニ坂根正雄ガ居リ右三名ノ中何レノ一名ガ弁護人ノ弁護権ヲ抛棄シタモノカ右ノ記載ニヨツテハ判明シナイノミナラズ他ノ二名ハ弁護人ノ弁護権ヲ抛棄シテ居ラナイト解サザルヲ得ナイ加之其ノ二名ノ中ニハ本件上告被告人両名ノ全部又ハ一名ガ含マレテ居ルコトハ解釈上当然ノ帰結デアル。果シテ然ラバ原審裁判所ハ弁護人ノ弁護権ヲ抛棄シテ居ナイ被告人二名ノ為メニ弁護人久保寺誠夫ヲシテ弁護権ヲ行使スル機会ヲ与ヘナケレバナラヌ筈デアル。

然ルニ原審第一回公判調書並一件記録ニヨレバ原審裁判所ハ第一回公判ヲ以テ事実並証拠調ヲ終了シテ結審シ判決言渡期日ヲ来ル一月二十九日午前十時ト指定告知シ訴証関係人ニ出頭ヲ命ジテ閉廷ヲ宣シタニ止マリ弁護人久保寺誠夫ニ対シ昭和二十四年一月二十九日午前十時ノ第二回公判期間ニ出頭スベキ旨召喚状ヲ発送スルコトナク且第二回公判調書ニヨレバ同弁護人同公判ニ出頭シテ居ラズ又何等弁護権ヲ行使シタト見ルベキ記載モナク単ニ被告人両名外一名ニ対スル判決言渡ヲ為シタコトヲ知リ得ルニ止マルノデアル。従テ原審裁判所ハ弁護人ノ弁護権ヲ抛棄シテ居ナイ被告人二名ノ為メニモ終始弁護人久保寺誠夫ノ弁護権ヲ行使スル機会ヲ与ヘズシテ有罪判決ヲ言渡シタモノト調ハザルヲ得ナイ。或ヒハ此ノ点ニ付原審裁判所ハ弁護人久保寺誠夫ハ第一回公判期日ニ欠席シタノデアルカラ其ノ期日懈怠ノ責任ハ同弁護人自ラ負担シナケレバナラズ従テ単ニ公判廷ニ於テ次回公判期日ヲ告知スルノミニヨツテ同弁護人ニ対スル次回公判期日ノ告知ノ効力ガアルモノト看做サレタノカモ知レナイ。然シ乍ラ被告人ガ公判ニ於テ弁護人ノ立会ヲ求メル権利ヲ憲法第三十七条第三項及応急措置法第四条ニヨツテ保障セラレルコトトナツタ本件ニ於ケル公判手続ニ於テハ旧刑事訴訟法当時ノ右ノ如キ解釈論ハ自ラ改メナケレバナラヌモノト信ズル。仍テ原審公判手続ハ結局弁護人久保寺誠夫ノ弁護権ノ行使ヲ不法ニ制限シタ違法ガアリ破毀ヲ免レナイモノト信ズル。

(ロ) 前記ノ「被告人ハ弁護人ノ弁護権ヲ抛棄セリ」ヲ以テ仮ニ被告人三名ハ弁護人ノ弁護権ヲ抛棄セリノ意味ニ解シ得ルトシテモ被告人等ハ何レモ既ニ最終ノ意見陳述ヲ為シテ居ルコトハ原審第一回公判調書ニヨツテ明カナ事実デアルカラ右ノ「弁護人ノ弁護権ヲ抛棄セリ」トハ被告人三名ガ弁護人久保寺誠夫ニヨツテ行使シテモラウ同弁護人ノ最終ノ意見陳述権ヲ抛棄シタト解スル外ハナイ。然シ乍ラ弁護人ノ弁護権ハ被告人ニ属スル権利ヲ行使スル外ソノ独自ノ立場ニ於テ被告人ノ利益ヲ擁護スル固有ノ権利ヲモ有シテ居ルモノデアリ此ノ固有権ハ単ニ最終ノ意見陳述権ニ止マラズ被告人訊問及証拠調ノ段階ニ於テモ発見シ得ルコト旧刑事訴訟法第三百三十八条第三項応急措置法第十一条第一項ニヨツテ明カデアルカラ被告人等ガ弁護人不出頭ノ公判ニ於テ最終陳述ヲ為シタ後ニ弁護人ノ弁護権ヲ抛棄スル陳述ヲ為シテモソレヨリ以前ニ発現スベキ弁護人ノ固有権ヲ遡ツテ処分シ得ルモノデハナイト解スベキデアル。然ルニ原審ハ被告人ノ右弁護人ノ弁護権抛棄ノ陳述ヲ以テ能事畢ハレリトナシテ審理ヲ終結シ被告人等ニ対シ有罪判決ヲ言渡シタコトハ結局弁護人久保寺誠夫ノ弁護権ノ行使ヲ不法ニ制限シタ違法アルコトニ帰シ全部破毀ヲ免レナイモノト信ズル。

右陳述シマス。 以上

昭和二十四年八月十一日

右両名弁護人

石原武夫

最高裁判所

第三小法廷御中

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